理化学研究所
計算科学研究機構
研究部門
理
化
学
研
究
所
計
算
科
学
研
究
機
構
研
究
部
計算科学研究機構
研究部門は、計算科学から計算機科学にまたがる多数の研
究チームを有して、この二つの分野間の連携・協業により、科学技術の飛躍的
な発展を実現する世界的な研究拠点をめざしています。
今日のスーパーコンピュータは、何百万個ものコア(コンピュータの中核部)を
同時・並列に動作させることにより、莫大な量の演算や情報処理を瞬時に行い
ます。このようなスーパーコンピュータを開発し、そのもてる能力を十分に引き出
すには、スーパーコンピュータを利用する計算科学
(Computational Science)
と
スーパーコンピュータを開発する計算機科学
(Computer Science)
が密接に連
携・協業する必要があります。
研究部門の各チームでは、計算科学・計算機科学の最先端の研究を推進する
と同時に、研究チーム間の高度な分野間連携を追求し、また、スーパーコンピュー
タ「京(けい)」の高度利用を可能とする基盤的研究を実施しています。
さらに、「京」の後継機、ポスト「京」の開発プロジェクトの開始にともない、
最先端スーパーコンピュータシステムの開発とアプリケーションプログラムの開発
のコデザイン(協調設計)にも積極的に協力しているところです。
研究部門は、このような幅広い研究活動を通じて、素粒子・宇宙、物質・材料、
地球環境、生物・医学、工学など、科学と技術のあらゆる分野においてなくて
はならない存在となっているスーパーコンピュータの開発と、それを利用した科学
技術の先端的研究を推進していきます。
コンピュータ・シミュレーションにより、科学的に未来を見通す
「予測の科学」の確立をめざし、以下のことを実行します。
研究部門長あいさつ
基本コンセプト
スーパーコンピュータ「京」の運用を行い、
ユーザに対して使いやすい計算環境を提供する
計算機科学分野と計算科学分野を連携・融合させた
研究を行う国際的な研究拠点を形成し、
先進的成果の創出や科学技術のブレークスルーを生み出す
ポスト「京」コンピュータとそれを活用する
アプリケーション・ソフトウェアの開発、
および計算科学技術のあり方や将来構想を策定する
計算科学研究機構 副機構長/研究部門長
宇川 彰
理化学研究所では研究成果を社会に普及させ
るため、国内外の大学や研究機関、民間企業
との連携を推進しています。計算科学研究機
構でも、多様な機関・組織と共同研究や連携
協定等を締結しています。
・
共同研究:大学、研究機関、
民間企業等
45
件(うち海外機関
3
件)
・研究にかかる協定:
13
件
(うち海外機関
10
件)
2017年9月現在
主な協定機関・組織
C O N T E N T S
計算科学研究機構
研究部門について
...2
システムソフトウェア研究チーム
...4
プログラミング環境研究チーム
...5
プロセッサ研究チーム
...6
大規模並列数値計算技術研究チーム
...7
利用高度化研究チーム
...8
連続系場の理論研究チーム
...9
離散事象シミュレーション研究チーム
...10
量子系分子科学研究チーム
...11
量子系物質科学研究チーム
...12
粒子系生物物理研究チーム
...13
粒子系シミュレータ研究チーム
...14
複合系気候科学研究チーム
...15
複雑現象統一的解法研究チーム
...16
プログラム構成モデル研究チーム
...17
可視化技術研究チーム
...18
データ同化研究チーム
...19
総合防災・減災研究ユニット
...20
計算構造生物学研究ユニット
...21
人材育成
...22
組織と研究チーム
国内外との連携
研究部門
フラッグシップ
2020
プロジェクト フラッグシップ
2020
プロジェクト企画調整室
神戸事業所 研究支援部 計算科学 研究推進室
機構長 運用技術部門
国内
神戸大学、筑波大学、東北大学
アメリカ
イリノイ大学
国立スーパーコンピュータ応用センター
(NCSA)
メリーランド大学
(UMD)
イギリス
レディング大学
(UoR)
イタリア
国際高等学院(
S.I.S.S.A.
)
フランス
国立科学研究センター(
CNRS
)
原子力・代替エネルギー庁(
CEA
)
ドイツ
ユーリッヒ総合研究所
ユーリッヒ
スーパーコンピュータセンター(
JSC
)
オーストラリア
オーストラリア国立大学
国立計算機インフラストラクチャー(
NCI
)
中国
北京計算科学研究センター(
CSRC
)
その他
JLESC
(
Joint Laboratory for Extreme-Scale Computing
:
フランス・アメリカ・スペイン・ドイツの研究機関等
6
者による)
※計算科学研究機構との連携については 、
計算科学研究推進室 連携促進グループまでお問い合わせください。(P23) 機構長
平尾公彦
副機構長
兼研究部門長
宇川彰
副機構長
兼理化学研究所副理事
当研究チームは、
「京」、ポスト「京」、ポスト「京」の次システムに対して、ユー
ザ環境の継続性と利便性を考慮しながら先端的システムソフトウェアスタックの整
備および研究開発を行っている。具体的には、以下のシステムソフトウェアスタッ
クに取り組んでいる。
•
OS
カーネル
メニーコア型並列計算機向け軽量カーネル
McKernel
を開発している。
Linux
API
を有し
Linux
で動作するアプリケーションは
McKernel
上で効率よく動作
する。
Intel
社の最新
Xeon Phi
である
KNL
上で稼働している。
•
MPI
通信ライブラリ
アルゴンヌ国立研究所が中心となって開発している
MPI
通信ライブラリの一実
装である
MPICH
通信ライブラリを、「京」およびポスト「京」に実装している。
特に、ポスト「京」の通信ハードウェアを効率よく利用できる機構を開発している。
•
ファイル
I/O
ミドルウェア
実時間ジョブ間ファイル
I/O
を実現する
DTF
、
tar
フォーマットを有する並列
I/O
ライブラリ
FTAR
を開発している。
Linux
コンパティブル軽量カーネル
McKernel
の開発
HPC
分野では、超並列性と深いメモリ階層の導入によりさらなる計
算性能向上を図ろうとしている。これらを効率よく利用する新
しい実行時環境が必要とされている。実現手法の一つとして
新しい軽量カーネル(
LWK
)を用いる方法があるが、
LWK
は
一部の
POSIX API
のみしか提供していない。
しかし、近年ニー
ズが高まっている
in-situ
ビッグデータ解析やワーク
フローなどでは
POSIX / Linux
のもつ豊富な
API
が
必要とされる。これら矛盾する要求を満たすため
に、我々は
Linux
と軽量カーネル(
LWK
)が計算
ノード上で同時に稼働するハイブリッドカーネルを設
計・実装してきた。この
LWK
を
McKernel
、
Linux
カーネルと
LWK
の間のインタフェースを
IHK
と呼ぶ。
McKernel
はハードウェアを再起動せずに
Linux
カー
ネルから起動される。
Linux
で動作するバイナリは
McKernel
でも動作する。
McKernel
ではメモリ
/
プ
ロセス
/
スレッド管理などの性能を重視する機能の
チームリーダー
石川 裕
[email protected]
チーム・ウェブサイト
http://www-sys-aics.riken.jp
システムソフトウェア研究チーム
System Software Research Team
高性能計算・ビッグデータ・
AI
のための
システムソフトウェア開発
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
みが実装され、残りは
Linux
に委譲される。
McKernel
の特
徴の一つは
OS
ノイズの少ない環境を提供していることである。
サンディア国立研究所が提供する
Fixed Work Quanta
ベンチ
マークは、固定
CPU
負荷をかけたときに実行時間がどれだけ
ずれるかを計測する。
このベンチマークで、
McKernel
では
実行時間が一定だが、
Linux
では大きな実行時間差が生じる
ことが示された。
1. M. Hatanaka, M Tanaka, A.Hori and Y.Ishikawa.: “Oloaded MPI Persistent Collectives using Per-sistent Generalized Request Interface,” EuroMPI/ USA 2017, (2017).
2. B.Geroi, M.Takagi, G.Nakamura, T.Shirasawa, A. Hori and Y. Ishikawa.: “On the Scalability, Perfor-mance Isolation and Device Driver Transparency of the IHK/McKernel Hybrid Lightweight Kernel,” IEEE International Parallel and Distributed Pro-cessing Symposium (IPDPS), (2016).
3. M. Si, A. J. Pena,Hammond, P. Balaji, M. Takagi and Y. Ishikawa.: “Casper: An Asynchronous Progress Model for MPI RMA on Many-Core Architectures,” Proceed-ings of 2015 IEEE In-ternational Parallel and Distributed Processing Symposium (IPDPS), pages 665-676, 2015.
1987 慶應義塾大学大学院工学研究科電気工学
専攻博士課程修了(工学博士)
1987 通商産業省電子技術総合研究所(現産業
技術総合研究所)
2006 東京大学大学院情報理工学系研究科
コンピュータ科学専攻教授
2014 AICS システムソフトウェア研究チーム、シス
テムソフトウェア開発チームチームリーダー、 フラッグシップ2020プロジェクトプロジェク
トリーダー(現職)
1330000
1325000
1320000
1315000
1310000
1330000
1325000
1320000
1315000
1310000
10000
9800 10200 10400 Work count
10600 10800 9800 10000 10200 10400 Work count
linux + isolcpus mckernel
Fixed Work Quanta(FWQ)execution time Fixed Work Quanta(FWQ)execution time
Linux with isolcpus McKernel
Execution time (cycle) Execution time (cycle)
10600 10800
当研究チームでは、「京」のような大規模な並列システムの能力を引き出し、
かつ、難しいといわれる並列プログラミングの生産性を向上させるためのプロ
グラミング言語およびプログラミングモデルの研究開発を行ってきた。その一つ
が、
PGAS
(
Partitioned Global Address Space
)モデルをベースとした新しいプ
ログラミング言語「
XcalableMP
」の開発である。我々は、
Omni XMP
コンパイ
ラというレファレンス実装を行い、「京」に向けた最適化や
PGAS
モデルの性能
評価、さらに「京」以外の演算加速機構をもつ並列システムへの適用を行って
きた。また、「京」の大規模並列プログラム向けの性能チューニング・解析ツー
ル「
Scalasca
」を研究用に移植し、ユーザに提供した。
現在、エクサスケール計算のための高性能高生産性プログラミング環境に向
けて、
XcalableMP
の次のバージョンである
XcalableMP 2.0
の研究開発を進
めている。大規模なメニーコアプロセッサ並列システムを活用するためのプログ
ラミングが重要な課題となるため、マルチタスク機能と
PGAS
の片方向通信を統
合したモデルを提案している。これにより、時間のかかる大域的な同期を排除し、
RDMA
による軽量の通信機構と計算のオーバーラップを可能にして、効率化が図
れると期待している。また、ポスト「京」に向けては、
wide SIMD
に関するコン
パイラの最適化の研究も進めている。
XcalableMP
が
HPCC
の
Class2
部門賞を
2
年連続受賞
XcalableMP
を「京」で用いた際の性能が、スーパーコンピュー
タに関する国際会議
SC
の
HPC
チャレンジベンチマークコンテ
ストにおいて、
2013
、
14
年と続けて
Class2
部
門賞を受賞した。この部門では、提案する並列
プログラミング 言 語 で
RandomAccess
、
FFT
、
HPL
、
STREAM
などのベンチマークを実装したと
きの性能と生産性を評価する。我々は典型的な
ステンシル計算である
Himeno
ベンチマークも加
え、これらを「京」で性能評価した結果を提出
した(最大の場合「京」の全ノードを用いた)。
2014
年には、「京」に向けてコンパイラをチュー
ニングした他、アルゴリズムの工夫を行った結
果、
XcalableMP
を用いたプログラムは、
MPI
によるレファレンス実装とほぼ同じ性能を達成で
きた(図)。また、生産性の一つの指標として、
XcalableMP
によるコードの行数が
MPI
を用いた
チームリーダー
佐藤三久
[email protected]
チーム・ウェブサイト
http://pro-env.riken.jp
プログラミング環境研究チーム
Programming Environment Research Team
エクサスケール計算のための高性能
高生産性プログラミング環境の研究開発
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
XcalableMP による HPCC ベンチマーク(SC14)の結果
1. Y. Kodama. “Preliminary Performance Evaluation of Application Kernels using ARM SVE with Multiple Vector Lengths,” Re-Emergence of Vector Architectures Workshop (Rev-A), HI, USA, Sep. 2017.
2. M. Nakao, H. Murai, H. Iwashita, T. Boku, M. Sato. “Implementation and evaluation of the HPC Challenge benchmark in the XcalableMP PGAS language,” International Journal of High Performance Computing Applications, Mar. 2017. doi: 10.1177/1094342017698214 3. M. Tsuji, M. Sato. “Fault Tolerance Features of
a New Multi-SPMD Programming/Execution Environment,” Proceedings of First International Workshop on Extreme Scale Programming Models and Middleware, Texas, USA, Nov. 2015. doi: 10.1145/2832241.2832243
2001 筑波大学システム情報系教授
2007 同大学計算科学研究センターセンター長 2010 AICSプログラミング環境研究チーム
チームリーダー(現職)
2014 フラッグシップ2020プロジェクト
副プロジェクトリーダー、 アーキテクチャ開発チーム チームリーダー(現職)
場合のコードに比べて、少ないことがわかった。これらにより、
XcalableMP
が並列プログラミング言語として、良好な生産性
「京」やポスト「京」では、ネットワークで接続された膨大な数の計算ノードが
相互に通信し合いながら手分けして並列に処理を進めることにより、大規模な計
算を高速で実行する。しかし、ノード数が多くなるにつれて通信や同期に時間が
かかり、全体として計算機の規模に見合った性能を実現しにくくなる。また、昨
今の大規模並列計算機は、複数のマルチコアプロセッサからなる共有メモリ型ノー
ドを分散メモリ型並列計算機として相互に接続したものであり、その複雑な構造
のために、性能を十分に引き出すためのプログラミングや最適化は困難で時間
のかかる作業となっている。これに対し、当研究チームでは、処理単位である「タ
スク」の依存グラフとして記述した計算問題を自動的に並列化し、ハードウェア
資源を適切に割り当てながら実行を進める「データフロー型」並列計算モデルの
開発に取り組んでいる。依存するタスク間に限定された局所的なデータ移動や同
期に基づくことにより、システム規模に応じた性能が容易に得られるようになる。
一方、機械学習やビッグデータ処理といった新しい種類の計算問題を高性能
かつ低電力で実行するための計算加速機構の研究にも取り組んでいる。アルゴ
リズムを専用ハードウェア構造に変換し、それを回路再構成可能デバイスにプロ
グラムし実行することで、従来のプロセッサが苦手とする処理の高速化をめざし
ている。
専用計算加速機構を生成するコンパイラを開発し低電力高
性能数値計算を実現
ムーアの法則と呼ばれる半導体技術
の進展が減速・停滞してきたことから、近い将来、メニーコ
ア型の汎用マイクロプロセッサでは計算性能の向上が困難に
なるといわれている。この問題を解決する方法の一つとして、
対象計算問題を専用の回路に変換し、回路再構成可能デバ
イス
FPGA
を用いて専用の計算加速機構を実現する試みが
注目を集めている。これまで、数式による独自言語のプログラ
ムから専用の計算加速機構ハードウェアを生成するコンパイラ
と、
FPGA
を用いてそれを動作させるための処理系の開発を
行った。浅水方程式に基づく津波シミュレーションに対して本
処理系を適用したところ、単一の
FPGA
により、
GPU
によるシミュ
レーションと比べておよそ
2
倍の計算性能、および
8
倍の電
力性能比を実現した。これは、対象とする計算問題に特化し
たメモリシステムやデータフローグラフに基づく計算パイプライ
ンにより、効率よく演算を実行できる回路を生成できたためで
ある。このほかにも、数値データ列をリアルタイムに圧縮し異
チームリーダー
佐野健太郎
[email protected]
チーム・ウェブサイト
http://www.riken.jp/research/labs/aics/research/processor/
プロセッサ研究チーム
Processor Research Team
大規模高性能計算のための
並列計算モデルと計算加速機構を開発
おもな研究内容
チームリーダー略歴
主要論文
専用ハードウェア構造への変換による高性能計算の実現
なるチップ間のデータ伝送速度を向上させることが可能なハー
ドウェアモジュールの開発に成功している。
今後は、これらの成果を発展させるとともに、大規模かつ
複雑化する計算機を効率よく利用し容易に性能を引き出すこと
ができるような処理系の研究開発に取り組む。また、半導体
の微細化技術が停滞する近い将来において有効な、新しい
並列計算モデルとアーキテクチャの確立をめざす。
1. Kentaro Sano and Satoru Yamamoto, “FPGA-based Scalable and Power-Eicient Fluid Simu-lation using Floating-Point DSP Blocks,” IEEE Transactions on Parallel and Distributed Systems (TPDS), DOI: 10.1109/TPDS.2017.2691770, (2017).
2. Tomohiro Ueno, Kentaro Sano, and Satoru Ya-mamoto, “Memory Bandwidth Compressor for FPGA-based High-Performance Custom Stream Computation,” ACM Transactions on Reconfigu-rable Technology and Systems (TRETS), (2017). 3. Kohei Nagasu, Kentaro Sano, Fumiya Kono, and
Naohito Nakasato, “FPGA-based Tsunami Simu-lation: Performance Comparison with GPUs, and Roofline Model for Scalability Analysis,” Journal of Parallel and Distributed Computing, DOI:10.1016/j.jpdc.2016.12.015, (2016).
2000 東北大学大学院情報科学研究科情報基礎
科学専攻修了
2005 東北大学大学院情報科学研究科情報基礎
科学専攻助教授(2007年より准教授) 2006 インペリアルカレッジロンドン客員研究員 2017 AICSプロセッサ研究チーム
チームリーダー(現職)
計算加速機構 ハードウェア コンパイラ
専用計算回路 モジュール
システム オンチップ への 組み込み
「京」、ポスト「京」と変化していく計算機環境の中でハードウェア能力を最大
限に発揮しつつ高効率性と精度を達成するには、計算機科学的・数学的に高
度化された数値計算ライブラリの利用が必須となる。当研究チームは、高機能
な数値計算ソフトウェアライブラリの研究開発を推進している。。①連立一次方程
式用ソフト、②高性能固有値ソルバ
EigenEXA
、③
3
次元高速フーリエ変換ソフ
ト
KMATH FFT3D
、④長周期乱数生成ルーチン
KMATH_RANDOM
など、大規模化、
高並列、高性能、高精度、耐障害性という観点から、数値計算アルゴリズムの
選定と数値計算ライブラリの整備を担ってきた。ポスト「京」に向けては、メニー
コアクラスタに対応した数値計算パッケージ
KMATHLIB2
の公開をめざしている。
一方、「京」までのスパコンでは実装が難しかった、非対称固有値計算や高
次テンソルの計算に代表される「極難問題」を解くための並列アルゴリズムの開
発にも取り組んでいる。また、
「京」に向けて開発した「高精度計算フレームワー
ク」をポスト「京」に拡張する研究も行っている。計算有効桁数を制御したり潜
在的な非決定性を取り除いて計算を繰り返すことで、蓄積する誤差を減らし計算
の再現性を保証する手法も開発している。さらに、国内外の研究者や企業との
共同研究・連携にも力を入れ、ポスト「京」にとどまらず、長期間にわたって
利用可能な数値計算ライブラリの基盤技術の確立をめざしている。
世界最高速の固有値計算に成功
行列の固有値計算は、大
規模なコンピュータシミュレーションや、ビッグデータにおける
データ相関関係の解析などで必ず使用されるが、その計算
量が行列の次元の
3
乗に比例して増加し、計算時間がかか
るために大規模問題を高速に計算することが難しい。従来の
計算アルゴリズムでは、①密行列を三重対角行列に変換する
前処理を行い、②その後に、三重対角行列の固有値計算を
行って固有ベクトルを得、③最後に、もとの行列の固有ベク
トルにする(図の緑線部分)が、計算が大規模になると①に
膨大な時間がかかる。この問題への解決方法として、前処理
として一度、帯行列に変換し、さらに三重対角行列に変換す
る
2
段階のスキーム(図の青線部分)も開発されたが、前
処理部分を高速化できるものの、後処理部分の計算量が
2
倍以上に増加してしまう。
EigenExa
は、帯行列を直接導くこ
とで、この流れを効率化する新たなスキーム(図の赤線部分)
に基づくソフトウェアであり、「京」の全プロセッサを用いること
で、
100
万×
100
万の行列の固有値問題を
1
時間以内で解
チームリーダー
今村俊幸
imamura.toshiyuki @riken.jp
チーム・ウェブサイト
http://www.aics.riken.jp/labs/lpnctrt/index.html
大規模並列数値計算技術研究チーム
Large-scale Parallel Numerical Computing Technology Research Team
高速・高精度シミュレーションのための
数値計算ライブラリを整備
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
新しいスキームの概念図
くことができた。過去の我々が知る世界最大規模の固有値計
算は、地球シミュレータ(初代)の
4992
プロセッサを用いて
40
万×
40
万行列を
3
時間半で解いた記録だった。
1. T. Imamura, T. Fukaya, Y. Hirota, S. Yamada and M. Machida, ”CAHTR: Communication-Avoiding Householder TRidiagonalization”, Proc. Par-Co2015, Advances in Parallel Computing, Vol. 27: Parallel Computing: On the Road to Exas-cale, pp. 381-390, 2016.
2. Y. Hirota and T. Imamura, “Divide-and-Conquer Method for Banded Generalized Eigenvalue Problems”, Journal of Information Processing Computing System, Vol.52, Nov, 20, 2015. 3. T. Fukaya and T. Imamura.: “Performance
evalua-tion of the EigenExa eigensolver on Oakleaf-FX: tridiagonalization versus pentadiagonalization” Parallel and Distributed Processing Symposium Workshop (IPDPSW), 2015 IEEE International, pp. 960-969, May 25 2015.
1996 京都大学大学院工学研究科応用システム
科学専攻単位取得退学
1996 日本原子力研究所計算科学技術推進
センター
並列処理基本システム開発グループ
2000 博士(工学)取得 2003 電気通信大学講師・助教授
(2007年より准教授)
2012 AICS大規模並列数値計算技術研究チーム
チームリーダー(現職)
の 1
の 2
DPLASMA
類似の数学 ソフトウェア
前処理 後処理
ELPA
類似の数学 ソフトウェア
EigenExa
我々の開発した ソフトウェア
ScaLAPACK
類似の数学 ソフトウェア
の用いた 新しい
B の固有値 固有ベクトル T の固有値 固有ベクトル
A の固有値 固有ベクトル 三重対角
行列
帯行列 実対称
当研究チームのミッションはスーパーコンピュータにおけるプログラミングの生
産性を高めることである。データ処理や人工知能などの新しい技術に注目が集
まる中、スーパーコンピュータにおけるプログラム生産性の重要性は高まっている。
なぜなら、スーパーコンピュータには、データの取得が難しい現象をシミュレーショ
ンによって仮想的に発生させる、あるいは人工知能を用いた社会実験を安全に
行う環境を提供するなどの新しい役割が期待されており、この期待に応えるため
には、多種多様な装置や現象をシミュレーションするプログラムを短時間で開発
することが求められるためである。
当チームはモデル記述言語、データ処理基盤、機械学習フレームワークなどの
開発、実行環境をスーパーコンピュータ上に整備した上で、これらを接続するた
めに必要な技術を研究開発する。現在、「京」は、
Fortran
などのプログラミン
グ言語を用いて計算手順を記述することにより利用されるのが通常であるが、本
チームは、シミュレーション対象機器などの動きを数式に近い形で与える言語や
GUI
を用いて、シミュレーション、データ処理、あるいはそれらの融合から成る
大規模な計算を容易に実行できる環境の実現をめざす。また、製品からサービ
スに移行している産業界の動向も踏まえ、アカデミアの成果物であるソフトウェア
をサービスの形で普及させるべく、社会的に必要な仕組みの検討も行う。
モデル記述言語の活用
当研究チームはモデル記述言語を
スーパーコンピュータで活用することをめざす。シミュレーショ
ンの最大の問題は、シミュレーションの定義に高度な専門性
と膨大な時間を要することである。産業界の一部ではシミュ
レーションを簡潔に記述できるモデル記述言語が利用されて
いるが、一般的には、これらを用いて作成されたプログラムは
最適化や並列化が十分でなく、解ける問題の規模や精度が
限られる。我々は、モデル記述言語をスーパーコンピュータ向
け数値ライブラリに接続するなどの方法で、最低限の人間の
手助けにより、利便性と問題規模の両立を実現する手法を開
発する。
シミュレーションとデータ処理の融合基盤
上記のモデル記
述言語に、さらにデータを扱う仕組みを結合する。データ処
理については、データ解析で有名な
Hadoop
や
Spark
、あ
るいは人工知能分野で研究がさかんな各種深層学習フレーム
ワークなど、多くの既存技術が存在する。しかし、実行機構
の違いなどから現状ではシミュレーションとの併用は容易でな
チームリーダー
松葉浩也
[email protected]
利用高度化研究チーム
HPC Usability Research Team
誰もがシミュレーションやデータ処理
プログラムを作成できる環境を整備
おもな研究内容
チームリーダー略歴
主要論文
い。当研究チームではこれらを接続し、理論的に構築した
モデルと機械学習で構築したモデルを併用するような複雑
なシミュレーションであっても、単一の環境で最低限のプ
ログラミングにより実行できる環境を整備する。
1. Hiroya Matsuba, Kaustubh Joshi, Matti Hiltunen and Richard Schlichting, “Airfoil: A Topology Aware Distributed Load Balancing Service,” 2015 IEEE 8th International Conference on Cloud Computing
2. Hiroya Matsuba, Matti Hiltunen, Kaustubh Joshi and Richard Schlichting, “Discovering the Struc-ture of Cloud Applications Using Sampled Packet Traces,” 2014 IEEE International Conference on Cloud Engineering
3. Atsushi Hori, Yoshikazu Kamoshida, Hiroya Matsuba, Kazuki Ohta, Takashi Yasui, Shinji Sumimoto and Yutaka Ishikawa, “On-demand ile staging system for Linux clusters,” 2009 IEEE International Conference on Cluster Computing
2006 東京大学情報基盤センター助手 2010 東京大学大学院情報理工学系研究科
コンピュータ科学専攻 博士(情報理工学)
2010 株式会社日立製作所
2012 AT&T Labs. 客員研究員(- 2014) 2017 AICS利用高度化研究チーム
チームリーダー(現職)
Developing an end-to-end solution from simulation modeling to data processing
Modeling
language
Data analysis
framework
Machine learning
framework
Existing supercomputing infrastructure
MPI
File system
Numerical libs
素粒子・原子核の研究はミクロの自然界の極限を究めようとするが、ビッグバ
ン宇宙論を通じて初期宇宙や元素合成論の研究にもつながり、また量子性が本
質的な役割を果たす点で原子・分子レベルの物質研究にも通じる点がある。当
研究チームでは、素粒子・原子核の基礎理論である格子量子色力学(格子
QCD
)を中心とした計算科学研究を行っているが、その研究遂行のためには、
アルゴリズムや計算手法の改良によって計算機の高い実効性能を追求する必要
がある。しかしながら、現在の
CPU
のメニーコア化やそれ以上の並列化が要求
される演算加速器を活用した階層的大規模並列計算機環境のもとでは、従来と
は異なるアルゴリズムの開発や計算手法の開拓の必要性が認識されている。こ
れらの課題を克服するために、アルゴリズムの研究開発を行う数値解析・応用
数学分野、さらにはソフトウェア技術・計算機システムの研究開発を行う計算機
科学分野との連携を図り、計算科学者・計算機科学者・数理科学者が三位一
体となった分野横断的研究を推進する。
2
次元
QED
の相構造解析に成功
テンソルネットワーク(
TN
)
スキームは、
2000
年代以降、さまざまな分野で理論的・計
算科学的研究手法として概念的・実用的側面において急速
な発展を見せている。素粒子物理学分野においては、近年、
我々のグループが、グラスマンテンソル繰り込み群(
GTRG
)を
用いて
1
フレーバーのシュヴィンガーモデル(
2
次元
QED
)の
相構造解析に成功した。これにより、
TN
スキームにおいては
モンテカルロ法に内在する符号問題が存在しないこと、およ
びグラスマン数の直接的取り扱いが可能なことによりフェルミオ
ン場とボソン場に対する計算コストが同等であることが示され
た。本研究は、ユークリッド時空で定義された相対論的フェル
ミオン入りゲージ理論への最初の応用例である。さらに、我々
はθ項を付加した場合の
1
フレーバーのシュヴィンガーモデル
の相構造解析も行った。この場合、作用は複素数となるが、
理論的考察から予想される相構造を再現することに成功した。
このことは、
GTRG
法が複素作用をもつようなシステムにも適
用可能であることを意味している。我々が最終目標とする
4
次
チームリーダー
藏増嘉伸
[email protected]
連続系場の理論研究チーム
Field Theory Research Team
計算素粒子物理学に基づく新たな
計算科学アルゴリズム・手法の開発と応用
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
θ項を付加した場合の 1 フレーバーシュヴィンガーモデルにおける相構造
元格子
QCD
は、相対論的フェルミオンを含む
SU(3)
非可換ゲー
ジ理論であるため、現在はその目標へ向かって
2
次元を超え
た高次元モデルに対する
TN
スキームの応用を試みている。
1. X.-Y. Jin, Y. Kuramashi, Y. Nakamura, S. Takeda, and A. Ukawa.: “Critical Point Phase Transition for Finite Temperature Three-Flavor QCD with Non-Perturbatively O(a)-Improved Wilson Fer-mions at Nt=10,” Physical Review D96 (2017) 034523.
2. Y. Shimizu and Y. Kuramashi.: “Grassmann Tensor Renormalization Group Approach to One-Flavor Lattice Schwinger Model,” Physical Review D90 (2014) 014508.
1995 東京大学大学院理学系研究科博士課程
物理学専攻修了
2007 筑波大学准教授
2010 AICS 連続系場の理論研究チーム
チームリーダー(現職)
2012 筑波大学教授(現職)
0 π θ
m g first order
second order
当研究チームでは、分子や粒子の集団が示す現象を統計物理学に基づいて
シミュレーションにより研究してきた成果を活かし、連続な関数だけでは記述しき
れない、いわゆる離散事象が核心となる問題を「京」・「ポスト京」をはじめと
するスーパーコンピュータでシミュレートし、解析するための技術開発・基礎研究
に取り組んでいる。現代のデジタルコンピュータは、
0
と
1
という離散的な状態
を活用して設計され動作しており、
0
の場合と
1
の場合とではまったく異なる処
理が進む。これは離散事象の例である。交通・経済・病気の流行などといった
社会現象でも離散事象は重要である。自動車が直進するか右折するか、財を売
るか買うか、免疫があるかないかによって、その後の経過は大きく異なる。そして、
離散事象の連鎖からさまざまな変化が生じる。こうした離散事象は、物質の性質・
環境・気候変動・医療・創薬・ものづくり・防減災をはじめ、ほぼあらゆる問
題で重要となる。当研究チームでは、こうした離散事象の発生と連鎖をスーパー
コンピュータで扱い、記述し予測するための基盤ソフトウェアおよび数理モデルの
開発を進めている。
実行管理アプリケーションの開発
離散事象がかかわる問題
を研究する際には、非常に多くのシミュレーションを実行し、
系統的に解析する必要がある。スーパーコンピュータを用いれ
ば、数十万の小規模シミュレーションを実行可能だが、実行・
解析には非常に手間がかかるため、シミュレーションを円滑・
確実に実行・解析するための仕組みが不可欠となる。
当研究チームでは、この問題を解決するためのソフトウェア
を開発している。その一つが現在公開中の
OACIS
である。
これはさまざまな条件での多数のシミュレーションの実行・管
理・解析を支援するソフトウェアであり、社会シミュレーション
をはじめロボットの評価や物質設計などに理研の内外で活用
されている。
当研究チームではこれまでに、
OACIS
と「京」などのコンピュー
タを活用して交通・経済・社会関係などの現象の研究に取り
組んできた。その結果、例えば以下のような成果を得た。
•
都市の自動車交通における各道路の重要性を分析する手法
を開発し、神戸市に適用して自動車交通の因子の候補を特定
チームリーダー
伊藤伸泰
[email protected]
離散事象シミュレーション研究チーム
Discrete Event Simulation Research Team
連続関数だけでは記述しきれない現象や
数理モデルのシミュレーション
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
OACIS の構成図:中央部分の点線内が OACIS 本体である
した。
•
災害から避難する際に隘路となる要素を特定する手法を開
発し、金沢市や鎌倉市の沿岸部に津波が来た場合に円滑な
避難を妨げる要素の候補を特定した。
1. Y. Murase, T. Uchitane and N. Ito, “An open-source job management framework for parameter-space exploration: OACIS,” Proceedings of the 30th Annual Workshop “Recent Developments in Computer Simulation Studies in Condensed Matter Physics” (The University of Georgia, Ath-ens, U.S.A., February 20-24, 2017).
2. Shota Nagumo, Takashi Shimada, Naoki Yosh-ioka, and Nobuyasu Ito, “The Effect of Tick Size on Trading Volume Share in Two Competing Stock Markets ” Journal of the Physical Society of Japan vol.86, 014801 (2017).
3. Takayuki Hiraoka, Takashi Shimada and No-buyasu Ito, “Order-disorder transition in repul-sive self-propelled particle systems,” Phys. Rev. E vol.94 (2016) 062612.
1991 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻
修了(理学博士)
1991 日本原子力研究所情報システムセンター
研究員
1995 東京大学工学部物理工学科講師、1997
年10月より助教授を経て准教授(現職) 2012 AICS離散事象シミュレーション
当チームの目標は、ナノマテリアルや生体分子に代表される大規模で複雑な分
子系の化学反応・物性・機能をミクロの立場から理論先導で解明・予測する
ため、次世代の理論分子科学の基盤を構築することである。さらに、「京」のよう
な超並列計算機を有効に利用することで、分子科学が対象とするさまざまな問題
と課題を解決することを目標にしている。具体的な達成目標は以下の
3
点である。
①次世代分子理論に基づいた理論分子科学の展開
従来の分子理論が抱える問題点を克服し、ブレークスルーを達成することで、
予測性を備えた理論先導の分子科学を確立する。そのために、大規模で複雑
な分子系の反応・性質・機能をミクロの立場から理論先導で解明するための次
世代分子理論とそのための計算手法を構築する。
②超並列計算機環境に資する分子科学計算ソフトウェアの開発と提供
「京」のような超並列計算機環境を有効に活用できる分子科学計算ソフトウェア
「
NTChem
」を開発し、共用利用できるように整備 ・ 公開する。
③ハイスループット・コンピューティングによる新材料設計
「京」を利用したハイスループット・コンピューティングにより、マテリアルズ・イ
ンフォマティクス手法を用い、太陽電池材料や人工光合成材料に対し、実験に
先行した新材料設計を実現することで、エネルギー・環境問題の解決につなげる。
超 並 列 計 算 機 環 境に資 する分 子 科 学 計 算ソフトウェア
「
NTChem
」 の開発
量子化学計算ソフトウェアは物質科
学・生命科学などの多くの分野の共通基盤である。コンピュー
タの高度化・高性能化に伴い、大規模な分子系を高精度に
計算する要望は急速に増しつつある。しかしながら、既存ソフ
トウェアの多くは単一プロセッサの時代に設計 ・ 開発されたも
のであり、その拡張としての単純な並列化は可能ではあるが、
「京」のような超並列計算機においては並列化効率が問題と
なる。全系丸ごとの分子計算に関していえば、
2017
年現在
では
1000
原子分子程度の第一原理電子状態計算が上限で、
新規の機能発現などが期待できるナノスケールサイズの数千∼
1
万原子系に対する計算は不可能である。「京」の圧倒的な
計算資源を活かすためには、超並列計算が可能で一般ユー
ザが利用できる分子科学計算ソフトウェアの開発が急務であ
る。そこで、幅広い分野の多くのユーザの利用に資する汎用
分子科学計算ソフトウェア
NTChem
の開発を行っている。
NTChem
は一から設計をした新しい国産分子科学計算ソフ
チームリーダー
中嶋隆人
[email protected]
チーム・ウェブサイト
http://labs.aics.riken.jp/nakajimat_top/JHome.html
量子系分子科学研究チーム
Computational Molecular Science Research Team
日本発の「理論」+「ソフトウェア」
+「京」で理論先導の化学を牽引
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
NTChem の電子相関計算部の「京」での並列性能
トウェアである。既存ソフトウェアのもつ多くの機能をカバーし
つつ、新たに開発してきたオリジナリティの高い理論手法の集
大成でもあって、他のプログラムでは利用することのできない
多くの量子化学計算法を含んでいる。さらに、「京」などのマ
ルチコア超並列クラスタ計算システムの性能を引き出すことが
可能な並列アルゴリズムが実装されている。
1. T. Yonehara, T. Nakajima, “A quantum dynamics method for excited electrons in molecular ag-gregate system using a group diabatic Fock ma-trix”, J. Chem. Phys. 147, 074110 (2017). http:// dx.doi.org/10.1063/1.4998746.
2. R. Maitra, Y. Akinaga, T. Nakajima, “A coupled cluster theory with iterative inclusion of triple excitations and associated equation of motion formulation for excitation energy and ionization potential”, J. Chem. Phys. 147, 074103 (2017). http://dx.doi.org/10.1063/1.4985916. 3. T. Nakajima, M. Katouda, M. Kamiya, Y.
Nakat-suka, “NTChem: A high-performance software package for quantum molecular simulation”, Int. J. Quantum Chem. 115, 349–359 (2015). DOI: 10.1002/qua.24860.
1999 東京大学大学院工学系研究科助手 2003 東京大学大学院工学系研究科講師 2004 東京大学大学院工学系研究科助教授 2010 AICS量子系分子科学研究チーム
計算機をはじめこれまでの主要なエレクトロニクス技術の発展の礎は、半導体
中の電子の振る舞いを正しく記述できるバンド理論の成功にある。しかしながら、
半導体デバイスの微細化は限界に迫っており、今後、エレクトロニクス技術に変
わる新たな新原理の創出が求められている。その中で、例えば、スピンの流れ
を利用したスピントロニクスや、まったく新しい原理をもとにした量子コンピュータ
等が近年注目を集めている。これらの新しい原理を実現するためには、それに
適した物質開発が不可欠であり、その有力物質として強相関物質があげられる。
強相関物質は電子間の相互作用が強い物質群であり、これまでのバンド理論は
適用できない。当研究チームでは、強相関物質を含む相互作用の強い量子系、
つまり強相関量子系に対するシミュレーション法の研究開発を行ってきた。特に、
大規模並列計算が可能な量子モンテカルロ法、密度行列くりこみ群法、および、
テンソルネットワーク法の開発を行い、基底状態のみならずダイナミックス(熱力
学、励起ダイナミックス、実時間ダイナミックス)の高精度計算の実現をめざす。
世界最先端のシミュレーションを実現することにより強相関量子系に対する最先
端研究基盤を確立する。
ハバード模型に対する世界最大規模の計算を実現し量子相転移の普遍
性を解明
電子間クーロン斥力で誘起される金属
-
絶縁体転移は物性
物理学の根本的な問題として古くから研究されてきた。当研究チームでは、
その最も簡単な模型であり、また、グラフェンの模型でもあるハニカム格
子上のハバード模型で現れる金属
-
絶縁体転移の高精度解析を行った。
この系は、電子の分散が、相対論的電子である
Dirac
電子と同じ分散を
もつことで特に注目されている。我々は、ハバード模型を数値的に厳密に
取り扱うために量子モンテカルロシミュレーションを開発し、「京」の性能
を最大限活用するために高度化することにより、
2,592
電子までの計算を
実現した。これは現在、世界最大規模の計算であり、これまでの世界記
録である
648
電子の計算よりも
64
倍程度規模が大きい。
これにより、まず、ハニカム格子ハバード模型で起こる金属
-
絶縁体転
移は、間に中間相等を含まない連続転移であることを指摘し、さらに、
相互作用する
Dirac
電子系における金属
-
絶縁体転移を特徴づける量
(臨界指数)を高精度で決定することに成功した。今後は、前人未到の
10,000
電子の計算に挑戦し、例えば、現代固体電子論の基礎理論であ
る
Fermi
液体論の正当性を
Dirac
電子系において明らかにしたい。
チームリーダー
柚木清司
[email protected]
量子系物質科学研究チーム
Computational Materials Science Research Team
強相関量子系に対するシミュレーションを
開発し最先端研究基盤を確立
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
違った大きさの系(2L2)で起こる金属 - 絶縁体転移の 振る舞いが同じ普遍的な関数で記述される。その時の指 数(βとν)がその相転移を特徴づける。
1. Y. Otsuka, S. Yunoki, and S. Sorella, “Universal quantum criticality in metal-insulator transition of two-dimensional interacting Dirac electrons”, Phys. Rev. X 6, 011029 (2016).
2. S. Sota, S. Yunoki, and T. Tohyama, “Density-matrix renormalization group study of third harmonic generation in one-dimensional Mott insulator coupled with phonon”, J. Phys. Soc. Jpn. 84, 054403 (2015).
3. S. Sorella, Y. Otsuka, and S. Yunoki, “Absence of a Spin Liquid Phase in the Hubbard Model on the Honeycomb Lattice”, Scientific Reports 2, 992 (2012).
1996 名古屋大学大学院工学系研究科応用
物理学専攻博士課程修了
2008 理化学研究所柚木計算物性物理研究室
准主任研究員
2010 AICS量子系物質科学研究チーム
チームリーダー(現職)
2012 理化学研究所創発物性科学研究センター
計算量子物性研究チーム チームリーダー(現職)
2017 理化学研究所柚木計算物性物理研究室
タンパク質、核酸、脂質分子などは細胞機能を担う重要な生体分子である。
これら生体分子の立体構造はおもに
X
線結晶構造解析などの実験的手法で決
定されるが、その動的構造を明らかにして機能との関係を理解することが創薬な
どへの応用に重要である。生体分子の動的構造を解明するためには、分子動
力学法を高速化することでシミュレーションが扱うことのできる時空間スケールを
拡大する必要がある。
そのために、当研究チームは
GENESIS(Generalized-Ensemble Simulation
System)
という新しい分子動力学ソフトウェアを開発し、並列化と高速化を進め
るだけでなく、レプリカ交換分子動力学法や
String
法など効率よく生体分子の
構造変化を予測するアルゴリズムの開発を行っている。従来よく用いられている
全原子分子モデルだけでなく、より高速化・大規模化を進めるために必要な粗
視化分子モデルや、酵素反応を取り扱うことのできる量子力学
/
分子力学混合
計算法(
QM/MM
法)などを含むマルチスケール分子モデルの開発も行っている。
さらに、
1
分子計測実験など生体分子の動的構造情報を与える実験とシミュレー
ションの融合を可能とする新しい方法の開発をめざして、データ同化や機械学習
などの手法を適用している。
世界初のバクテリア細胞質の全原子分子動力学計算に成功
これまでの分子動力学シミュレーションは、溶液中または
脂質二重膜中にタンパク質または核酸を
1
分子配置し、その
生体分子の動的構造を調べるために行われていた。一方で、
細胞質や細胞膜、細胞核などの環境の中での生体分子の動
的構造や他の分子との相互作用に関するシミュレーションは、
計算機資源やプログラムの能力の限界などの理由でほとんど
行われてこなかった。
我々は、当研究チームで開発している分子動力学プログ
ラム
GENESIS
の並列化を進めることにより、「京」を用いて
細胞環境を考慮した大規模な生体分子のシミュレーションを
可能にした。遺伝情報や生体分子情報が豊富なバクテリア
Mycoplasma genitalium
の細胞質に含まれる多くのタンパク
質、
RNA
、リボソームに、イオンや
ATP
などの代謝物、水分
子を加えた全原子モデルに基づく分子動力学計算を「京」を
用いて行い、さらに詳細なトラジェクトリデータ解析を行うこと
で、細胞質内でのタンパク質の拡散、構造安定性、タンパク
チームリーダー
杉田有治
[email protected]
チーム・ウェブサイト
http://www.riken.jp/TMS2012/cbp/ja/index.html
粒子系生物物理研究チーム
Computational Biophysics Research Team
生体分子機能を予測する大規模分子
動力学シミュレーション手法の開発
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
バクテリア細胞質の全原子構造モデルを用いたシミュレーション
質間あるいはタンパク質・代謝物間の非特異的相互作用など
に関する新たな知見を得た。
1. Biomolecular interactions modulate macro-molecular structure and dynamics in atomistic model of a bacterial cytoplasm, Isseki Yu, Taka-haru Mori, Tadashi Ando, Ryuhei Harada, Jae-woon Jung, Yuji Sugita, and Michael Feig, eLife 5, e19274 (2016).
2. GENESIS: A hybrid-parallel and multi-scale molecular dynamics simulator with enhanced sampling algorithms for biomolecular and cel-lular simulations, Jaewoon Jung, Takaharu Mori, Chigusa Kobayashi, Yasuhiro Matsunaga, Takao Yoda, Michael Feig, and Yuji Sugita, WIREs Comp.
Mol. Sci. 5, 310-323 (2015).
3. Reduced Native State Stability in Crowded Cel-lular Environment Due to Protein-Protein Inter-actions, Ryuhei Harada, Naoya Tochio, Takanori Kigawa, Yuji Sugita, and Michael Feig, J. Am.
Chem. Soc. 135, 3696-3701 (2013).
1998 京都大学大学院理学研究科化学専攻
博士課程修了
1998 岡崎共同研究機構分子科学研究所助手 2002 東京大学分子細胞生物学研究所講師 2010 AICS粒子系生物物理研究チーム
チームリーダー(現職)
DNA Mycoplasma genitalium
Cytoplasm
100nm
数値シミュレーションで扱われるシステムは、規則格子系、不規則格子系、
粒子系に大別される。計算機環境が進歩し、大規模なシミュレーションが可能
になるに従って、より現実的で複雑なシステムを扱うことが可能になり、そのため
に、形状や境界条件に柔軟に対応できる不規則格子系や粒子系の手法が重要
性を高めている。
しかし、不規則格子系や粒子系を、「京」やポスト「京」のような大規模並
列システムで効率よく扱えるプログラムを開発することは容易ではない。適切なロー
ドバランスを実現するための領域分割、領域間の粒子等の移動、領域にまたがっ
た相互作用計算等の複雑な処理を効率よく実現する必要があるからである。一
方、大規模な粒子系シミュレーションでは必ずこのような処理が必要になる。
本研究チームでは、粒子系シミュレーションであればどのようなものにでも使え
る「粒子シミュレーションソフトウェア開発フレームワーク」
FDPS
を開発している。
FDPS
は、アプリケーション側で定義した粒子データ型や粒子間相互作用を計
算する関数を受け取り、それらを扱うための関数群を提供する。それらを使うこ
とで、アプリケーション開発者は並列化やチューニングに多大な時間を割くことな
く、解きたい問題に集中できる。
汎用・超高速の粒子系シミュレーションソフトウェア開発フ
レームワーク開発に世界で初めて成功
本研究グループで開
発している粒子系シミュレーションソフトウェア開発フレームワー
ク「
FDPS
」は、世界で初めて、並列化を意識しないで書か
れたユーザープログラムを「京」のような世界トップレベルのス
パコンで高効率で動作させることに成功した。「京」では、重
力多体問題、重力
+
流体の複合問題の両方で、「京」全系
までで性能がスケールし、
50%
を超える実行効率を達成した。
さらに、
GPGPU
システムにも適応し、アプリケーション開発言
語も
C++
の他に
Fortran
もサポートした。さらに、メニーコア、
アクセラレータだけでなく、ヘテロジニアスマルチコアシステム
でも効率のよい実行ができるような改良を進めている。
FDPS
はさまざまな大規模シミュレーションに利用されるよう
になってきており、月形成の最有力モデルである巨大衝突の
世界最大規模のシミュレーション(図)や、世界で初めての
小惑星周りのリングのフルシミュレーション等、従来不可能で
あった研究を可能にしている。
チームリーダー
牧野淳一郎
[email protected]
チーム・ウェブサイト
http://www.jmlab.jp
粒子系シミュレータ研究チーム
Particle Simulator Research Team
大規模な粒子系シミュレーションコードを
だれでも作成できるようにするための
フレームワークを開発
おもな研究成果
チームリーダー略歴
月形成の最有力モデルである巨大衝突の世界最大規模のシミュレーション
主要論文
1. Hosono, N., M. Iwasawa, A. Tanikawa, K. Nitado-ri, T. Muranushi, and J. Makino, Unconvergence of very-large-scale giant impact simulations, Publications of the Astronomical Society of Ja-pan, 2017, 69, 26-.
2. Iwasawa, M., A. Tanikawa, N. Hosono, K. Nita-dori, T. Muranushi, and J. Makino, Implementa-tion and performance of FDPS: a framework for developing parallel particle simulation codes}, Publications of the Astronomical Society of Ja-pan, 2016, 68, 54-.
3. Iwasawa, M., S. Portegies Zwart, and J. Makino, GPU-enabled particle-particle particle-tree scheme for simulating dense stellar cluster sys-tem, Computational Astrophysics and Cosmol-ogy, 2015, 2, 6-.
1990 東京大学大学院総合文化研究科広域科学
専攻博士課程修了(学術博士)
1990 東京大学教養学部助手
2012 AICS粒子系シミュレータ研究チーム
チームリーダー(現職)
2014 理化学研究所─計算科学研究機構 エク
サスケールコンピューティング開発プロ ジェクト(現フラッグシップ2020プロジェ
クト) 副プロジェクトリーダー(兼務)
2016 神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻教
「京」に代表される大型計算機の出現により、
1km
を切る格子サイズの全球
雲解像モデルによる、地球全体の大気のシミュレーションが可能となった。一方
で、全球雲解像モデルでは、大気の運動や雲の生成に影響する「格子サイズよ
りも小さな現象」を直接計算することができないため、これらに伴う計算結果の
不確実性を軽減すべく、更なるモデル化を行っている。それは計算結果の不確
定性につながる。将来的には、より確実な指導原理に基づく全球渦解像モデル
に移行していくことで、モデル化の違いによる不確定性は低減すると見込まれる。
しかしながら、将来の全球渦解像計算への道のりはまだ遠く、次のような課題を
克服しなければならない。渦解像スキームにおける解像度依存性の把握と解の
収束性の検証、実際の大気を対象とした計算のための新たな理論やスキームの
構築、各物理過程の精緻化と高速計算アルゴリズムの開発、大規模計算の解
析のためのポスト処理ライブラリの開発などである。我々は、全球渦解像計算実
現へ向けて、理想的な状況下における雲の階層構造や気候学的多重平衡解の
探索、実際の現象を対象とした地域気候研究といった複数の科学的課題に取り
組んでいく。
超高解像度全球大気シミュレーションで積乱雲をリア
ルに表現
我々は、全球雲解像モデルを用いて、水
平格子サイズ
1km
を切る解像度での全球大気のシミュ
レーションを世界で初めて行った。高い空間解像度で
の実験を行うことで、積乱雲などの対流を複数の格子
で表現できるようになった。格子サイズが
2km
以下と
なると、モデルの中で再現される積乱雲が現実に近づ
き、再現性が向上することが示された。この研究により、
モデル内で雲を直接解像することが可能となったが、さ
らに結果の不確定性を排除し、現象の収束性を示すた
めには、より高い解像度での渦解像モデルによる研究
に取り組んでいく必要がある。
チームリーダー
富田浩文
[email protected]
チーム・ウェブサイト
https://climate.aics.riken.jp/top.htm
複合系気候科学研究チーム
Computational Climate Science Research Team
渦解像気候計算の全球適用に向けた
気候科学研究と数値気象ライブラリの開発
おもな研究成果
チームリーダー略歴
主要論文
1. Yoshida, R., S. Nishizawa, H. Yashiro, S. A. Adachi, Y. Sato, T. Yamaura, and H. Tomita (2017): CONeP: A cost-efective online nesting procedure for re-gional atmospheric models, Parallel Computing, 65, 21-31, doi: 10.1016/j.parco.2017.04.004. 2. Nishizawa, S., H. Yashiro, Y. Sato, Y. Miyamoto,
and H. Tomita, 2015, Influence of grid aspect ratio on planetary boundary layer turbulence in large-eddy simulations, Geosci. Model Dev., 8, 3393-3419, doi:10.5194/gmd-8-3393-2015. 3. Miyamoto, Y. and Y. Kajikawa, R. Yoshida, T.
Yamaura, H. Yashiro and H. Tomita (2013): Deep moist atmospheric convection in a sub-kilometer global simulation, Geophys. Res. Lett., doi:10.1002/grl.50944.
1999 東京大学大学院工学系研究科修了、
博士(工学)
1999 地球フロンティア研究システム
(後の地球フロンティア研究センター) 研究員
2007 地球フロンティア研究センター
(現海洋研究開発機構)主任研究員
2011 AICS 複合系気候科学研究チーム
チームリーダー(現職)
格子間隔 3.5km (比較) 格子間隔:870m